リレーションシップ

リレーションシップ

 

実際の資金調達のかなり前のある時点から、投資家とのミーティングを開始します。ミーティングは、実際にパートナーとして仕事をしたい投資家が見つかるまで続ける必要があります。こうしたミーティングは、投資家が皆さんの企業を完全に評価し、意思決定をするまでの情報を与えることはなく、しかしながら投資家に強い印象を与え、興味を持ってもらうものでなくてはなりません。その一端として必要になるのが、資金調達を実際に始める時期に関する明確なコミュニケーションです。

こうした資金調達前のミーティングは有益ですが、これらを実際の資金調達と混同してはいけません。私たちがこれまで関わった創業者の中には、「シリーズAで資金を調達する最善の方法は、資金調達をしないふりをして、投資家と社交的な会話を沢山することだ」と話していた人たちがいましたが、この戦略では、ほぼ必ず失敗に終わります。資金調達において最も成功を収めている創業者たちは、明確かつ積極的に資金調達の時期を判断し、その意思決定を投資家、アドバイザー、その他の創業者に伝えています。こうした創業者たちは、ストーリーやデッキ、ディリジェンスアイテムの準備、最も好ましい投資家との正式なピッチミーティングの設定、そして練習といったプロセスについて、十分に考え抜いて行動しています。

正式なプロセスの開始前にパートナー選定に時間を費やすことで、優れた投資家のみで構成されている市場を確保することができます。また、そうすることで、パートナーになってほしくない投資家からのタームシートしか受領できない、といったリスクを減少できます。創業者にとっては、この時点で、すでに市場を自分に有利なように動かすプロセスが始まっているわけです。

以下はその方法を段階的に説明したものです:

1. シリーズA投資家候補のリスト作成

まず、自分の業界でシリーズAのリード投資家の経験があり、かつパートナーになっても良いと思える投資家をリストアップします。以下に当てはまる投資家は良い候補といえます:

  • 過去に話をしたことがあり、好感を抱いている、または個人的に知り合いである
  • 自分の業界に関してブログ投稿などをしている
  • 自分のバーティカルでシリーズのリード投資家の経験がある(しかし、競合する投資には注意すること)
  • YC創業者の場合:デモデーで自分を評価してくれている(Bookface上の企業プロフィールからアクセス可能)

こうしたパートナーが実際に小切手振出人であることを確認してください。小切手振出人は一般的には取締役会の一員であり、大半はLinkedInのプロフィールで確認可能です。小切手振出人ではない人物へのピッチに時間を費やすことは極力避けてください。

これをセールスファネルのように扱い、CRMを活用して投資家とのミーティングの経過を追うようにします(YCではYCカンパニー向けのCRMテンプレートを用意しています)。自社にとって、将来的に長期に渡り最適なパートナーになってくれると思われる人物の選定にフォーカスします。誰が自分に適した投資家かを判断するのは、もはや科学というよりは芸術に近い作業です。しかし、役に立つテクニックは存在します。同じ業界内の他の創業者に話を聞き、協力的な人物や小切手を切る役職にある人物がいないか探してください。投資家のブログ投稿に目を通せば、投資家が興味を持っていること、話題にしたがっていることを知ることができます[1]。

資金調達に成功したYCAカンパニーに関する初期分析に基づいて、YCでは少なくとも30回のコーヒーミーティング実施を目標にすることを推奨しています。平均的に、シリーズA資金調達を行った企業は、実際にパートナーになってほしい人物を絞り込む前に少なくとも30人の個人投資家とのコーヒーミーティングを行っています[2]。

2. 投資家に直接紹介してくれる人物の確保

リストアップした投資家へ直接紹介してくれる人物を探し始めます。自分と投資家をつないでくれる人物は非常に重要です。投資家は、紹介者に基づいてリードの質を評価します。そのため、紹介を依頼する人物は慎重に選んでください。機械的に紹介をしたり、自身がよく知らない相手であっても紹介をしたりするような投資家は避けてください。

投資家の視点からは、以下が最善の紹介者となります(降順):

  1. 自分を大きく儲けさせてくれた人物(例:成功を収めた他の創業者)
  2. 創業者の既存顧客である投資家のポートフォリオ企業
  3. 優秀ながらラウンドのリード投資家にはならなかった、創業者と付き合いのある投資家のなかの1人
  4. 信頼できる友人

上記のリストからわかるように、直接紹介してくれる最適なソースとして最も良いのは創業者です。YCの創業者には、YCのネットワークという非常にパワフルな利点が用意されています。自分がよく知っていて、自分や自分の企業のことを保証してくれる、そして自分が紹介してもらいたい投資家から資金調達をした経験があるYC創業者を探してください。

皆さんのシリーズAをリードする可能性がありながら、しなかった投資家からの紹介は受けないでください。皆さんのシリーズAをリードしたい投資家は、自分から競合相手に皆さんを紹介しないでしょう。そのため、こうした紹介をする投資家は皆さんに投資する意思がないと理解してください。

3. 好ましい投資家を見つけるための事前コーヒーミーティングの実施

創業者の目標は、現在のリストを自社によく合致すると思われる4~5人の投資家に絞ることにあります。ここで留意するべき点は、これらのミーティングは正式なピッチではない、ということです。30分のコーヒーミーティングでは、創業者は投資家に(1)この相手はパートナーとなってほしい人物か、(2)自社ビジネスで相手が最も興味を示したのはどこか、という2つを知るための質問を行います。

これをうまく行う方法として、自分にとって価値があり投資家がその提供に手間を要すること、つまりコーヒーミーティング中に電話を使う程度では済まないことを頼む、という方法があります。これには、投資家のネットワーク内にいる特定の顧客や投資家候補への紹介などがあります。こうした頼み事にはさらに2つのメリットがあります。1つ目は、投資家の回答またはフォローアップのスピードが彼らの興味の程度を測る良い尺度となることです。2つ目は、こうしたリクエストは投資家との会話から価値を引き出す優れた方法であることです。あるYCカンパニーは、自社への投資を断った投資家から4~500万ドルのARR(年間経常収益)を新たに獲得しました。これはビジネス上の取引でありデートではないため、頼み事は躊躇せず行ってください。魅力的なビジネス上の提案と受け止められれば、投資家側も合意するでしょう。

投資家は、皆さんのビジネスについて深く知ろうとするでしょう。それが彼らの仕事です。しかし、詳細な情報は与えないようにしてください。有益な経験則として言えることは、投資家が皆さんのビジネスについてもっと知りたくなるけれども最終的な判断を下すには十分ではない、という程度の情報を与えることです。なぜなら、「自社への投資はイエスかノーか」を迫るために創業者が提供する情報は、投資家にとっては市場における優位性を与えるものであり、創業者にとっては一連のプロセスにおけるレバレッジを減少させるものであるからです。

一般的に言えば、収益や成長など自社を良く見せる優れたメトリックは提供する情報として最適ですが、専有情報の共有は避けるべきです。専有情報とは、競合他社が自社に勝つために利用可能な情報と定義されます[3]。創業者は、投資家に提供する情報は全て公になるものと思って行動する必要があります。情報提供の要請を受けた場合は、「必要な情報は資金調達中に提供する予定で、その時になれば喜んでお話しします」と明確に伝えることで、丁寧にかわすことができます。投資家が「さらなる情報を得られるまで次のミーティングは行わない」と言う場合は、「資金調達の開始後、さらなる情報共有の準備が整ったらフォローアップをします」といった合意をするだけで構いません。

シリーズA投資家はおそらく皆さんの企業の5分の1を所有し、取締役会の一員となるでしょう。自分の企業に他者を入れることを軽く考えてはいけません。こうしたピッチ前のコーヒーミーティングは、創業者にとって相手の人間性を理解しリレーションシップを構築する機会です。また、これは相手の意思決定能力の程度や相手の企業における資金提供の可否に関する実際の意思決定者を把握する機会でもあります。今のうちに時間をかけて投資家について学び、契約締結後に「初めて知った」ということがないようにしてください。

4. 選抜した投資家たちとの定期的ミーティングの実施

投資家候補を選んだら、彼らに自社への強い関心を持ってもらうことが目標となります。そのためには、将来の業績に関する大胆な予測を披露し、その予測を達成または上回ることが最善の方法となります。

これを着実に実現していくことができれば、投資家は皆さんの企業により強い興味を抱くようになります。彼らは、より頻繁に連絡をしてくるようになり、さらには正式なピッチへの招待という形でも、その興味を示してくれるでしょう。これは、シリーズA資金調達をするべき時期に近づいていることを示す強力な指標といえます[4]。

創業者は投資家に対して、最終的な判断を下すには十分ではない、という程度の情報を与えながら自社への興味を持ち続けてもらうと共に、自社ビジネスは順調であると納得してもらう必要があります。こうした、よりカジュアルな雰囲気で行われる個々のミーティングでは、創業者は投資家に「資金調達に積極的に動いているかどうか」を明確に伝えることが重要です[5]。

これには微妙なバランスが求められます。この方法で面談をする投資家が多すぎると、軌道からずれてしまい、起業家ではなく交際家とみなされてしまうリスクがあります。非常に多くの情報を共有したり、必死にピッチを行ったりしている場合は、投資家は皆さんが積極的に資金調達に取り組んでいると理解し、それを踏まえた行動を取るでしょう。

このバランスに関する完璧な公式はありません。投資家が先行オファーを出す場合、それは創業者が資金調達を始めようとしているのだろうと思っているからで、全体のプロセスの中で自分が一歩先を行きたいと思っているためであるのが一般的です。

また、完璧な開催頻度というものもありません。こうしたコーヒーミーティングは、創業者のことが常に投資家の頭にあるようにするのに十分な頻度、創業者が自ら設定した目標を達成するのに十分な頻度である必要があります。自分の時間的余裕や面談する投資家に応じて、まずは四半期に1回のミーティングから始めてください。

シードラウンドに投資してくれたシリーズAファンドに関する特記:

シリーズAファンドは、特に将来性があると思われる企業のシードラウンドに投資します。それは、シリーズAへの参加に関して他者より優位に立つためです。投資家にシリーズAファンドがいる場合は、必ずそのリレーションシップを活用してください。

 

注記:

[1]http://www.aaronkharris.com/utopia-bets-slash-apocalypse-betsを参照ください。

[2]創業者がタームシートを受領するために約30人の投資家と会う必要があったという事実に、私たちは驚かされました。YCではもう少し低い数字を予想していたためです。

[3]これは企業毎に異なりますが、事例にはチャネル特有の顧客獲得コストまたはユーザー継続(リテンション)が含まれています。

[4]YCカンパニーの場合、この段階に達したらグループパートナーとオフィスアワーのスケジュール設定をしてください。創業者がピッチの練習を重ね、そうしたミーティングに万全の態勢で臨むことができるようサポートします。

[5]これらの事前コーヒーミーティングの具体的な開催頻度および戦術は、YCAでは多くの時間を費やすディスカッションのテーマとなっています。

 

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本コンテンツは Y Combinator の許可を得て FoundX が翻訳しています。
翻訳元: Y Combinator Series A Guide

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