資金調達の時期

資金調達の時期

答えるのが最も困難な質問の1つに、「自社が資金調達をするべき時期は?」というものがあります。これはいわゆるインターネット上に何百もの回答が存在する質問の1つですが、納得のいく回答は1つもありません。これらの回答が役に立たないのは、全てのルールに膨大な例外があり、ルール自体が馬鹿馬鹿しく見えてしまうからです。

創業者は大抵、資金調達するべき時期に関して明快かつ具体的な回答をほしがります。そのため、VCはもっぱらメトリックを吟味するという考えに注目が集まります。例えば、「SaaS企業がシリーズAを実施するのに最適なのは、ARR(年間経常収益)が100万ドルを超えた時です」というものがあります。これは一見、もっともなように聞こえますが、私たちは過去にARRが20万~900万ドルでシリーズAを実施したSaaS企業を複数見ていますし、そのレンジ内で失敗に終わった企業も多数見ています。従って、VCはこのルールを重視していないことは明らかです。

これの対極にあるが、「可能な時に資金調達せよ」というアドバイスです。これは正しいですが、同語反復的です。資金調達が可能かどうかは、実際にやってみるしかありません。従ってこれは資金調達するべき時期の判断に関する整合的なフレームワークとは言えません。

私たちはシリーズAプログラムを開始して以来、ほぼ毎日この問題に回帰しており、その解決法に関するフレームワークの開発を始めました。正直に言ってしまうと、「完璧な答えは存在しません」。しかし、なぜ回答が存在しないのかについて、より多くの背景理解ができていることは有益です。

シリーズAラウンドで起きていることを理解するためには、資金調達に関する意思決定プロセスを横軸として考えると良いでしょう。この軸は大まかにアイデアから資金調達、ビジネスがスケールするまでの企業の推移に対応しています。意思決定プロセスと企業の進捗には密接な関係があります。なぜなら、企業のライフサイクルの各ポイントにおいて、企業がその時点までに達成したあらゆることに関する証拠を持っているのは、その企業に注目している投資家のみだからです。そうした証拠は、投資家の意思決定に大きな影響を与えます。この軸における最大のギャップは、将来性とメトリック、つまりシードラウンドとシリーズBラウンドの間です(以下の図を参照)。

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多くのシードラウンドは、創業者の資質および彼らが語る自社やその将来に関する、いわゆる初期のストーリーを基に資金を調達します。こうした創業者たちは、シリーズBまでには自分が語った将来を達成する能力を証明するために、多くのことを達成している必要があります。これには通常、数年を要し、自社ビジネスの健全性やさらなる資金調達の影響に関する詳細なメトリックを伴います。自社に適したメトリックはビジネスの特性によって異なります。ハードテック企業やバイオテック企業は技術的または規制的マイルストーン達成で評価され、ソフトウェア企業はかなりの収益や成長が期待されるでしょう。

シリーズAを理解するのが非常に困難なのは、シリーズAがこの2つのポイント間のどこかに位置し、その位置は創業者、達成した進捗、その企業が存続した期間によって異なるからです。

シリーズAを超大型のシードラウンドあるいは小規模なシリーズBと考えている場合、矛盾するアドバイスが意味を持ち始めます。なぜなら、これは特定の状況によって正しくもあり間違ってもいるからです。人の心を動かす大きな魅力を持ち、シリーズAのような金額規模の資金を調達できる創業者は存在します。しかし、時間+資金=進捗でなければならないため、これが機能するのは企業のライフサイクルの初期かつ多額のシードマネー調達前だけです。そうでなければ、投資家は疑問を感じるでしょう[1]。

企業がビジネスを長く続けているほど、あるいは創業者のストーリーテリング能力が低いほど、そのビジネスに関するより具体的かつ明確なメトリックが必要となります。多額のシードマネーを調達した企業が抱える課題の1つとして、多額の資金調達をしなかった企業よりもシリーズAに関して求められる要件が極めて高くなる、というものがあります。シードラウンドで多額の資金を調達した企業はシリーズAまでの期間が長くなるのが一般的であるため、投資家からは期間に見合った進捗を期待されることになります。

冒頭でも述べているように、これは、いつ資金調達をするべきか?という質問とその答えに関して創業者たちが求めている「確実な何か」を示すものではありません。しかし、明確な回答がないと理解することは重要です。なぜなら、それにより資金調達検討時に自社が有している相対的優位を考え抜くというフレームワークを得ることができるからです。

 

適切な時期を判断するための実践的手法

私たちの経験から言えることとして、習慣的ではないものの、定期的に少規模ながらモチベーションの高い投資家と会う創業者は、一般的に資金調達時に最も多くの選択肢を提示され、先行オファーのタームシートを受領する可能性が高くなる、というものがあります。これはかつて私たちが持っていた信念、「創業者は資金調達に積極的な時だけ投資家に会うべき」と矛盾します。

資本価値が過大に評価されている現代の世界では、資金調達について常に意識しておく必要があります。なぜなら、投資家は常に資本の分散配置について考えているからです。投資家は創業者と会う時はいつも、オファーをするべきか否かの評価をしています。それに気付いている創業者は、「友人間でのコーヒーミーティングなど存在しない」ということをしっかりと理解しています。

そのため、私たちは創業者たちにシードラウンド直後から限られた数のシリーズA投資家との面談を始めるよう推奨しています。そうしたミーティングを重ねることで、創業者は自社の進捗が投資家を満足させるものであるかどうかを理解できます。投資家が、「自分のパートナーにも正式なピッチをしに来てほしい」といった話をし始めたら、それはシリーズA資金調達をするべき時期に近づいている可能性を示しています[2]。反対に、投資家がミーティングに関心を示していない、定期的なフォローアップがない、あるいは資金調達の可能性に興味を示していない場合は、創業者にはまだやるべきことがある、ということです。自社ビジネスの成長にフォーカスしてください。

資金調達のタイミングに関して現実的に考えるべきポイントは、自社におけるランウェイの状況です。Paul Graham「The Fatal Pinch致命的なピンチ)」で説明しているように、スタートアップはランウェイが6ヵ月を切る前にさらなる資金調達をする必要があります。資金調達は数日で済む場合もあれば数ヵ月を要する場合もあるため、最悪の事態に備えて資金調達の完了までに最低3ヵ月の時間を設けるのが最善です。さらに、資金調達に向けた実際の準備期間として数ヵ月を設けておく必要もあります。以上の点から私たちは、ランウェイが12ヵ月の時点で、さらなる資金調達が必要かどうか考えることを推奨しています。これなら資金調達の準備に数ヵ月かけてもまだ9ヵ月のランウェイがありますし、致命的なピンチに至るまで、さらに3ヵ月の猶予があります。しかし、皆さんが資金を必要としているからといって、投資家が必ず手を差し伸べてくれるわけではない、ということを覚えておいてください。資金調達に成功してきた企業が達成しているメトリックやベンチマークをこの時点で達成していない場合は、Daltonが執筆したランウェイ1年未満の企業に向けたアドバイスに関する記事に目を通すことをお勧めします。

注記:

[1]しかし、ここに書かれている全てのルールと同様に、ピボットまたは単にストーリーテリングを得意とする創業者によってこのルールが破られるケースが存在します。

[2]ただし、投資家はより多くの情報を得るために「投資をするつもりだ」と創業者に思わせることを得意としている点を覚えておいてください。これを理解できるようになるには実践あるのみです。

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本コンテンツは Y Combinator の許可を得て FoundX が翻訳しています。
翻訳元: Y Combinator Series A Guide

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