シリーズAのプロセス
プロセスの詳細は企業によって異なりますが、一般的な構成に沿って進めましょう:
- 単独または複数のパートナーとのミーティング
- フルパートナーシップミーティング
- タームシートのオファー
- タームシート後デューディリジェンス
- クロージング
ファンドによって業務方法は異なるため、詳細についてはパートナーに尋ねておくのが最適です。創業者は、投資家のプロセスを熟知していることまでは期待されていませんから、相手先のプロセスや次のステップについて尋ねることは全く問題ありません。これは、創業者がプロセス内における自社の位置を理解する上でも役立ちます。
プロセスの流れはファネルと似ており、一部の投資家のみが次のステージに進みます。YCでは、ステージ間の平均的な減少レベルを調べるために、資金調達に成功したYCカンパニーのシリーズAのプロセスの初期分析をしました[1]。平均的にはコーヒーミーティングの50%が1人のパートナーへのピッチに、パートナーへのピッチの30%がフルパートナーシップピッチにそれぞれ進み、パートナーシップミーティングの5件のうち、タームシートまで到達したのは、たった1件でした。なお、これらの数字は資金調達に成功した一部企業からのものであり、資金調達に失敗した企業に関する数字はより低い可能性が高いでしょう。
プロセス全体の期間は、1週間から4ヵ月と、かなり幅があります。一般的には、単独または複数パートナーとのミーティングからフルパートナーシップまでは2週間、フルパートナーシップミーティングからタームシートまでは平均1週間と見ておいてください[2]。なお、投資家は各ミーティングの合間にデューディリジェンスを行い、このまま進めるべきかどうかを判断しますが、これはプロセスの進捗速度を左右する要因にもなります。投資家からのフォローアップの速度は、当該ディールに対する相手の関心レベルを示す有効な判断基準です。
単独&複数パートナーとのミーティング
シリーズA資金調達は、パートナーとの1対1のピッチミーティングから始まります。このミーティングでは、創業者はデッキを活用して自社について気軽な感じでプレゼンするのが一般的です。パートナーが関心を持ちつつも他者の意見を求めている場合は、他のパートナーを加えて再度、創業者とのミーティングを行うかもしれません。パートナーはこうしたミーティングの後、質問や情報要請を含めたフォローアップをしてくる可能性が高いでしょう(こうした要請への対処法の詳細は、「情報フローの管理」セクションを参照ください)。
こうしたミーティングは、2人以上のパートナーを交えて行われる場合もあります。その理由は様々ですが、シニアパートナーがジュニアパートナーを教育するための場合もあれば、ジュニアパートナーが「当該ディールに参加するべきです」とシニアパートナーを説得しようとしている場合もあります。また、過去には、逆に創業者を「コーヒー」に誘い、フルパートナーシップミーティングと同等のミーティングを行って創業者を驚かせたファンドも存在しました。実際、資金調達額が小さい(400~500万ドル)ラウンドの場合は、フルパートナーシップミーティングを行うことなく複数パートナーへのピッチ後にタームシートを提出してくるファンドも存在します。
私たちが創業者から最もよく受ける質問の1つに、「ミーティング後に何も連絡がない場合のフォローアップ方法は?」というものがあります。創業者は投資家から回答があるまで躊躇せずフォローアップに動いて構いません。しかし、以下の原則を忘れないでください:世の中には、「切羽詰まった時にしてしまうこと」と「忙しい時にすること」が存在します。相手には、必死さではなく忙しさを感じさせるようにしましょう。
小切手振出人ではない人物へのピッチに時間を費やすことは極力避けてください。ジュニアレベルの投資家はそのファンド内で話をするべき適切なパートナーへの橋渡しをしてくれますが、彼らは投資に関する意思決定者ではありません。正式なピッチプロセス中にアソシエイトやプリンシパルと面識ができた場合は、「すでに複数のファンドと交渉中で、スケジュールも限られているため、そして御社にプロセス参加の機会を逃してほしくないため、ぜひパートナーにピッチをさせていただきたい」と丁寧に伝えることができます。しかし、ファンド内の上級スタッフと話ができるかどうかは、創業者がどれだけのレバレッジを持っているかによる、ということを覚えておいてください。
投資家と面談した創業者は、ピッチの中で投資家が懐疑的に感じる部分、興味を示す部分が見えてきます。また、回答を用意できていない質問や、対処するべき懸念事項もわかってきます。得られたフィードバックを全て精査し、自分のピッチをより良いものとするための時間を、毎日必ず作りましょう。
投資家は皆、興味を持っているような姿勢を見せますが、ディールに心から興味を持っている投資家は全体の4分の1程度です。雑音に惑わされず、心から興味を持ってくれている投資家を見極め、そうした投資家と付き合うようにしていくのが皆さんの仕事です。
ファンド内のパートナー力学は非常に重要ですので、それらには留意してください。そして、誰が実際の意思決定者なのか、パートナーの現実的な意思決定能力レベルがどの程度なのかを見極めてください。
こうしたミーティングが、資金調達プロセスの大部分を占めることになります。
フルパートナーシップミーティング
ピッチを聞いたパートナーが「投資をしたい」と思った場合、創業者をフルパートナーシップミーティングに招待します。パートナーシップ全員とのミーティングは(通常)投資に関する意思決定の最終段階です。
このステージでは、創業者を招待したパートナーの役割がアウトサイダーからインサイダーへと変わります。つまり、「創業者が説得するべき人物」から、パートナーシップ内で「創業者を擁護してくれる人物」へと変わるわけです。その人物にサポートしてもらいながら、ピッチの準備およびディスカッション内で他のパートナーが注目すると思われる部分の把握に努めてください。スポンサーが十分に上級幹部(例:ファンド設立者)である場合は、このミーティングは形式的に行われるだけのものかもしれません。そうでない場合は、このミーティング後に、さらなるデューディリジェンスが必要となるかもしれません。
タームシートのオファー
タームシートのオファー=タームシートの受領です。シリーズAにおいては、タームシート提出に関する口約束や握手による合意はタームシートのオファーとはみなされません。タームシートの管理に関する詳細なガイドは、「クロージング」セクションを参照ください。
タームシートの交渉時は、可能であればYCが作成した標準的なシリーズAタームシートを使用することをお勧めします。複数のタームシートを受領した場合は、パートナーの選び方に関するアドバイスを記した「投資家の選び方」セクションを参照ください。
タームシート後デューディリジェンス
タームシートに署名するとタームシート後デューディリジェンスが始まり、これは一般的に30~45日程度を要します。このプロセスを加速させるには、シリーズAデューディリジェンス・チェックリストに記載されている書類をもれなく手元に用意しておく必要があります。
ラウンドのクロージングにおける法的業務は弁護士の仕事になります。どの弁護士を雇うかについて推薦が必要な場合は、「法務」セクションを参照ください。
クロージング
ここでようやく資金が銀行口座に入金されます。ここはベンチャーデットでの資金調達を行う良い機会となる場合があります(「ベンチャーデット」セクションを参照ください)。これで創業者は必要な資金を手にしたことになります。さあ、本業に戻りましょう!
必要に応じた反復
時には、全ての投資家からパスされたり、投資家からの連絡が途絶えたりすることもあります。こうした事態は、多くの創業者が思っているよりもかなり頻繁に発生します。驚いたことに、かなり多くの創業者が、投資家にピッチを行った後、何度も「ノー」と言われた末に、「イエス」という返事を勝ち取っていました。ある企業は、好条件のタームシートを受領するまでに30回断られていました。資金調達に成功した企業が「ノー」と言われる回数の中央値は18回でした。入念なプロセス管理と情報フローの規制を行っている限り、資金調達中に投資家に行うピッチの回数に上限はないように思われます。
絶対に資金調達を継続すると決めている場合は、断られたら別の投資家を探します。紹介をしてもらったり、先方とのミーティングを設定したりしましょう。プランB―黒字化またはブリッジローンでの資金調達―へ移行しなければならないかもしれない段階であるFatal Pinch(致命的なピンチ)になるまで、必要に応じて何度でもプロセスを反復してください。
そして、これが代替策の準備を推奨するもう1つの理由です。資金調達ができなかったとしたら、どうしますか?黒字化またはブリッジローンでの資金調達は可能ですか?そうすることで成長を促進させ、投資家に強い印象を与え、将来のシリーズA資金調達の可能性を高めるための時間を十分に得ることができますか?資金調達とは、感情的にも不安定になりやすいプロセスですから、心の平穏を保つためにもプランBを用意しておくことは極めて重要です。
シンジケートラウンド
シードラウンドでの資金調達とシリーズAでの資金調達の大きな違いの1つは、シリーズAの成否は多くの投資家からの少額のコミットメントではなく、少なくとも1人の投資家から多額のコミットメントを確保できるかにかかっている、ということです。これにより、資金調達の力学が変わってきます。シードラウンドでは、資金調達に弾みをつけるものとして有益なのは少額の小切手です。ラウンドの余地が少ないほど、資本提供のコミットメントに関するプレッシャーは大きくなります。通常、シリーズAではそうした少額のコミットメントはあまり有効ではありません。例外として、シンジケートラウンドの実施に使用される場合が挙げられますが、これはかなり稀で扱いにくいケースと言えます。
シリーズAにリード投資家を置くのが一般的なのは、通常、シリーズAはその企業にとって初めてのプライスドラウンド、つまりSAFEがエクイティに転換され、取締役会の構成や発行株式の種別決定などガバナンスや支配に関する重要な条件が決定される場面だからです。これは、ラウンド内の全員が一連の契約条項を遵守する必要があることを意味します。最も多くの資金を投資するリード投資家は、契約条件を決定し取締役会に名を連ねることができます。シリーズA資金調達に関する最も困難な作業はリード投資家の確保であるため、ラウンドの10%を出資するというコミットメントはほとんど訳に立ちません。リード投資家を確保したらラウンドのリスクは減少し、ラウンドの空枠を埋めることは困難でなくなるのが一般的です。実際、多くの企業はPro-Rataに十分な余裕がありません。ラウンドに対する投資家のオファーが金額的に少ない場合は、相手に感謝を伝え、「皆さんのことはしっかり心に留めておくが、何も約束はできない」ということを理解してもらいましょう。
このルールの例外がシンジケートラウンドです。シンジケートラウンドはシリーズAでは一般的ではありませんが、最近になって増加していることが判明しています。シンジケートラウンドでは、同規模の小切手を切る少数の投資家が小規模な連合を組み、全員が同等の「権利」を保有します。これは、全員が満足する条件の設定や取締役会メンバーの選定を困難にします。さらに創業者は、必要とする資金の残りをかき集める必要もあります。
シンジケートラウンドの運営が難しいのは、ラウンド全体をリードする人間が誰もいないためです。通常、ここで最高金額の小切手を切る人が取締役会に名を連ねることを希望するでしょう。最終的には、他の投資家がコミットするまでコミットしたがる投資家が1人も出てこない、という我慢比べ大会のようになってしまいます。そして創業者は、自分が必要な額を集められるまで、投資家同士が競い合うよう仕向けなくてはなりません。
これは、理由はどうであれ通常の投資家からオファーがなかった創業者にとっては、すばらしい結論と言えるかもしれません。しかし、まとめるのも管理するのも、より困難であるのが一般的で、通常は最後の手段とするべきです。
Notes:
注記:
[1]サンプルは比較的少数だったため、これらの数値は指針としてお使いください。
[2]しかし、例外は常にあります。過去にはフルパートナーシップミーティング後1日~1ヵ月後にタームシートを受領した創業者がいました。
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プロセスの適切な管理
本コンテンツは Y Combinator の許可を得て FoundX が翻訳しています。
翻訳元: Y Combinator Series A Guide